悲しい物語の幕開け

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 眩しい太陽の明かりが雲で遮られ、誰一人存在しない清々しさすらも放つ七月の空の下は、増大な広さを持つ土地なのに関わらず、まるで人の気配がない所為とでも言うかの様、大気中に寂しげな空虚を生み出している。  静寂に包まれたそこは、通常ならば賑やかに人々で溢れ返り、様々な騒音で溢れ返っている筈の場であろうにも、何故か一変して沈黙が漂っていた。  夏が始まると言わんばかりに、蝉が独特な気質の声でけたたましく辺りに振動を伝え、木々の緑風へ乗って無音の世界を通り抜けて行く。  その聞こえて来る発端は、白線が交互に彩られた広い路面から僅か先より鳴り響いており、一番自然があると言っても良い程の公共の場。公園だ。  人民が居ない為、子供が遊ぶ為に利用する遊具は存在意義を示しておらず、都心ならではのビルやマンション、住宅が立ち並んでいるにも何故か、人と言う人が存在しない。 「――……ん、あ」  そんな奇怪な周辺から聞こえる独特な蝉の声で、ある青年はふと目を覚ました。  薄く目を開け、仰向けになった身体。空には雲一つない晴天、まるで、塗料を満遍に塗り立てた様な群青色が広がっている。  思わず、立ち眩みを起こした症状に似たけだるさに襲われた青年――日向志季は、かんかん照りの太陽から逃れる様な動作で寝返りを打ち、目を細めた。  自分に纏わり付く程の、欝陶しい夏の暑さ。だが、それから音を立てて侵食され始める蝉の存在感により、それは素早く能内で正しい形になって変換される。  何故こんなにも暑く、明るいのだろうか。先程までは眩しさなど微塵も無く、心地良い涼しい空間であった筈なのに――。 「……あっちぃっ――!」  じわりと確実に伝わって来た身をよじる様な熱に素早く飛び上がり、志季は咄嗟に端正な顔立ちを歪ませた。湿り気を感じる額は汗を噴き出しており、似合わないものだと言いたげに滴り落ちる。  透明なそれに嫌悪感を感じた事で無意識にその雫を拭いながらも、途端、我に返る。  思考力が活動すべく、一気に上昇をし始めた。  この明るさ、異様なまでに高い温度。――そして、先程から視界に広がっている景色。 「……はっ?」  余りにも理解しがたい状況である事に、思わず今までにない程、目を見開く。見回した世界を目に映すと、掠れ気味で声を漏らした。  ――此処は、一体何処なのだろうか。  
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