悲しい物語の幕開け

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 取り敢えず、横たえていた身体を半ば強制的に起こし腰を上げると、服の裾に付着した細々しい砂を払って辺りを見渡した。  見た所、一見何の変哲もない、何処の街にも存在する様な公園の広場。  在り来りな恐竜の像が描かれた滑り台や、幼児が利用可能な高低さで設置されている鉄棒など、見覚えあるそれらはあからさまに物寂しげな雰囲気を醸し出している。  ただ他と違う事と言えば、何故か、人の気配が微塵も感じられないと言う事か。  しん、と静まり返った空気が、その違和感を更に浸透させていた。  公園など、年齢を重ねるにつれ通う事はなくなったものだが、そこがどういった場であるかは、大体誰もが認識している。  それなのに、自分の記憶にあるそれとは随分と違っているのだ。何処か違和感を消し去れないのは、確かだった。  雑音すらない、静寂が続く。 「え、いやいや。は? ……誰も居ないのか?」  まさか、人一人居ないなんて事はないだろう。  仄かな期待と不安を胸に抱きながら、志季はそう考え誰かの応答をただ待った。  さわさわと揺れる、自然体に溶け込む風の音。誰か、誰も居ないのか――繰り返す度、その異様な空間に飲まれて行く様な錯覚に蝕されて、一度大きく息を吐き出す。  先程から酷く息のしづらい空間を作り出している眩しい太陽の光りと耳障りな蝉の声が、異国の地で見られる砂漠の様、喉をからからに乾燥させた。 「はは、……有り得ねぇ。つーか、此処どこだよ。暑いって。しかも何で――」  潤いを求めるかの様に吐き出された言葉は、一抹の不安を露に微量だが奮えている。  しかし、昼間、と独り言の文末に疑問げに付け足された言葉で、ふと鮮明に浮かび上がる記憶から、居るべき人物の姿が存在しない事に気が付いた。  そうだ。よくよく思い出してみれば、先程まで見知りの友人と家に帰宅している最中だったのだ。一人である筈がない。  共に居た者も、この未知なる土地に一緒に連れて来られた可能性がある。  ただ、こんな所に連れて来てまで、一体誰が、何をしたいのか――。  理由は何にしろ、此処が見知らぬ場である事に変わりはない。  仲間という希望が微かに垣間見えると、その相手が近くに存在していないか、とにかく何か情報を得る為に、志季は視界に補えた様々な遊具を手当たり次第に調べ始めた。  
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