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心の中は、依然と不安や疑問ばかりが埋め尽くす。この状況をどう説明されたら納得出来るのか。
警戒心を呼び起こしつつ、とにかく此処が何処であるか理解する事が優先事項だろうと考えてから、志季はゆっくりと先の知れない道に向かい、アーチ状のそれを潜り抜けた。
「―――、すっげ……」
多少の躊躇いを持って中を踏み入れ自分の口から出て来た小声は、予想外だと言うかの様、驚嘆を露にした言葉だった。
上下右左と景色全てが引き込まれそうな見惚れる程の周囲を彩る深紅の薔薇は、歩みを進める度に、緑と溶け込む生命感すらも充実している様に見える程。
視界一面、緑と赤。そして他にも色放つ白、ピンクの薔薇など、少ない色合いの世界しか捉えられないのと同時に、先程まで砂地に覆われていた地面は、何処かの外国映画で出て来る様なレンガ積みのステップに変わっている。
明らかに通常とは異なる華やかな公園の敷地内に、更に疑念は増して行く。
一体、この先には何が待ち構えているのだろうか――少なからずそんな期待も混じっている自分に対し、やはり再び小さな溜め息を吐き出すしかなかった。
「つーか、本当にアイツの仕業じゃねぇーんだろうな…」
意外と距離のある道を、先に見える出口まで着々と距離を縮ませつつ洩れた言葉。
先程から口々にする『アイツ』とは、自分の親友であり大学でのライバルでもある、同じ同級生の事。そして今に至るまで、一緒に居た筈の者だ。
その人物がどういった思考と性格を持ち合わせているか十分に知り得ている志季にとっては、さながら、その者が何か仕出かしたのではないのだろうかと考えてしまう。
例を挙げるならば、ある時は、人が飲んでいる飲料を調味料が加えられた物とすり替え、またある時は、性悪く人が苦手とする物をわざわざ見せ付けたり、と。まるで言動が子供染みているのである。
だが勿論、こんな状況を作り出す行為を一人で行うなど、いくら何でも到底不可能に近い。
つまりこの土地の面積がどれ程のものなのかは分かり兼ねないが、知人の事なら簡単に想像出来た。
恐らく自分が倒れていた時と同様、何処かで暢気に寝息を立て、寝転がっている可能性の方が高い、と。――無論、もしかしたら既に意識が戻っているかも知れないが。
訝しげな面持ちでそんな予測を立てながら、志季は残り数メートル先の出口を見つめた。
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