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そんな小枝子が、幼くして不治の病に取り憑かれてしまったのは、3歳の時。
それから既に4年の闘病生活が過ぎ…
彼女は忌まわしい病魔との闘いを繰り返しながらも、決して生への希望は捨てず、将来の夢を抱くようになっていた。
その夢は、電車の運転士さんになる事。
小枝子は女の子にしては珍しく、物心ついた頃から大の鉄道ファンだったのである。
数ある電車の中でも、病院のすぐ横を走る、山手線の車両が大のお気に入り…
病室の窓からでも見ることが出来る、綺麗な緑色の車両。
病床からその勇姿を眺め、将来の自分が運転する姿を想像する…
それだけが彼女にとって、毎日の日課であり、唯一の楽しみだったのだが…
残念な事に、そんな日が訪れる事は無かったようだ。
ある日の朝、ついにその夢を叶える事も無く、小枝子は逝ってしまう。
静かに…
静かに…
眠るように目を閉じて。
僅か7年の、人生の終焉。
その亡骸が眠る、狭い病室には今日も山手線の車両が…
『ガタン、ガタンッ』と…
何事も無かったかのように音を響かせていたが…
小枝子にはもう、その音さえも聞く事は出来ない。
ただ…
動かなくなったその小さな腕の中には、大好きな電車の縫いぐるみが、しっかりと抱かれていて…
それは彼女にとって、大切な宝物だったのだろう。
小枝子…
彼女の命は、大人になる事も、夢を叶える事もなく、天国へと召されて行ったのだった。
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