『幼き命』

3/3
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
そんな小枝子が、幼くして不治の病に取り憑かれてしまったのは、3歳の時。 それから既に4年の闘病生活が過ぎ… 彼女は忌まわしい病魔との闘いを繰り返しながらも、決して生への希望は捨てず、将来の夢を抱くようになっていた。 その夢は、電車の運転士さんになる事。 小枝子は女の子にしては珍しく、物心ついた頃から大の鉄道ファンだったのである。 数ある電車の中でも、病院のすぐ横を走る、山手線の車両が大のお気に入り… 病室の窓からでも見ることが出来る、綺麗な緑色の車両。 病床からその勇姿を眺め、将来の自分が運転する姿を想像する… それだけが彼女にとって、毎日の日課であり、唯一の楽しみだったのだが… 残念な事に、そんな日が訪れる事は無かったようだ。 ある日の朝、ついにその夢を叶える事も無く、小枝子は逝ってしまう。 静かに… 静かに… 眠るように目を閉じて。 僅か7年の、人生の終焉。 その亡骸が眠る、狭い病室には今日も山手線の車両が… 『ガタン、ガタンッ』と… 何事も無かったかのように音を響かせていたが… 小枝子にはもう、その音さえも聞く事は出来ない。 ただ… 動かなくなったその小さな腕の中には、大好きな電車の縫いぐるみが、しっかりと抱かれていて… それは彼女にとって、大切な宝物だったのだろう。 小枝子… 彼女の命は、大人になる事も、夢を叶える事もなく、天国へと召されて行ったのだった。image=386432628.jpg
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!