空へ

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空へ

(パ、パパァ…ママァ…) 朦朧とした意識の中で、小枝子は再び目を覚ました。 だがここは明らかに、さっきまで寝ていたはずの病室ではない。 (変だなぁ、だぁれもいないよぉ。ここはどこぉ…?) 先程とは一変した景色に、不安げに呟く小枝子だが、それも無理はない。 彼女にしてみれば、耐え難い痛みに苦しんだ末に、意識を失って以来の目覚めなのである。 (あ、あれぇっ…?どっこも痛くないっ!?) 驚く事に、あの忌まわしい体中の痛みまでもが、全くと言って良いほど、感じられなくなっていた。 小枝子は恐る恐る、瞼を開くと… その視界には、真っ白な霧がもうもうと立ち込め、何も見えない。 それはまるで、雲の中にでも居るような、不思議な空間。 【まあっ白で何も見えないやぁ…?】 そう呟くとその場に立ち上がり、辺りを見渡すが、周りには人の気配もなく… 【ね~ぇ、誰かいないのぉ…?】 小枝子は心細そうにそう叫びながらも、その小さな体で精一杯の背伸びをし、遠くの方まで見渡して見た。 すると… 真っ白な霧の先にはおぼろげだが、かすかな光が見えている。 【あぁっ!?あっちの方だけ明るくなってるぅっ!あそこへ行けば誰かがいるのかも…?】 小枝子は恐々ながらも、わずかな光の指す方向へと振り向いた。 【よーしっ!!少し怖いけど、頑張ってあっちに行ってみようっと。】 そう力強く言うと小枝子は、光の方へ向かってゆっくりと歩き出したようだが… その小さな腕の中には、何やら緑色をした物体がしっかりと抱かれたまま。 そう、それは彼女の生前からの宝物… 大好きな電車の縫いぐるみだった。
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