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第二講野球
病室である。そして、個室であった。どこぞの病院の。
実際に寄せられたベッドに横たわっているのは、松尾先生--銀タム高校の体育教師である。ベッドに入ってもなお、薄い色の入ったサングラスを外そうとしない、なんというか、休日にはクルーザーで海に出かけてカジキマグロと戦ってんじゃない?みたいな雰囲気を身にまとった体育教師である。
が、今このとき、松尾は体育教師としてではなく、銀タム高校野球部監督として、自分の傍らに立つ男に話しかけていた。
「……頼んだぞ」
松尾にそう言われ、
「うーん……」と頭をかいているのは、白衣の男。だが、医者ではない。
白髪頭、ずれた眼鏡、病室でもくわえ煙草、安物のサンダルをはいた、坂田銀八である。
「なにが、うーんだ、コラ」
松尾は寝ている姿勢でも威圧的な声を出した。
「つーか、やっぱり俺は関係ないと思うんすけどね」
「関係ねーことねーだろう」
言いながら、松尾は少しだけ顔をしかめた。威厳は保ちつつも、やはり今は病んでいる身だ。
「てめーんとこの……Z組の生徒がしでかしたことだぞ」
と言われると、銀八としては返す言葉がなかった。
「いいか」
と松尾は有無を言わせぬ口調で続ける。
「試合の日程は動かせねーんだ。こっちから無理を言って組んでもらった試合だからな。あとこっちに残存してる戦力だが、ほとんどカスだと思ってくれていい。一人、なんとかなりそうな奴もいるが、今そいつは大スランプでな。つまり、おめーんとこの生徒に頑張ってもらわなきゃいかんわけだ」
はあ、とも、なんとも言わず、銀八は死んだ魚のような目で松尾の話をきいている。
松尾は布団の上から下腹を押さえ、迫ってきた苦痛に顔を歪めながら言った。
「とにかく、試合は来週の土曜日だ。--頼んだぞ」
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