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辺りはすっかり暗くなり、月明かりが照らす白銀の世界で、二つの影があった。
一つの影は全身に切り傷を負っているが、幸い致命的なものはない。
一方、もう一つの影は、手には身の丈ほどある鎌を持ち、それとは似合わない悲しい表情を浮かべ、目には溢れんばかりとする涙が光っている。
「なぜ、殺さない?」
手傷を負っている青年は立ち止まり、後ろを振り返ると、大きな鎌を持つ少女へと視線を向ける。
そんな彼を前に、不意に声をかけられた少女は肩を大きく弾ませ、鎌を力強く握った。
「だって、だってぇ……」
少女は力なく座り込み、今まで目に溜めていた涙を静かに流す。
「俺を殺せば終わるんだよ。
そうしたら、お前は幸せに――」
「無理だよ!無理に決まってるじゃない。
私は貴方を殺すことなんて……出来ないよ…」
少女は、彼の言葉を遮り、叫ぶ。
こんなことは望んでなどいなかった、と。
「なんで? なんで?
どうして私なの? どうして貴方なの?」
次から次へと流れる涙は、まるで止まることを知らないかのように流れ続け、寒さからか、それとも涙のせいからか赤く染まった少女の頬を濡らす。
そんな彼女を見た青年は一瞬だけ困った表情を見せたが、後からフッと笑い、ゆっくりと口を開く。
「仕方がないんだよ。
でも、お前は生きる事が出来るんだ。
いいことじゃないか?
お前にとって、死は〝探し求めてきた最高の美〟なんだろ?」
涙を流し続ける少女とは逆に、両手を大きく拡げ、まるで幼い子どものように笑う彼の表情は清々しいものだった。
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