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二人を照らす月が雲に隠れる。
冷たい風が少女の長い金髪と、青年の黒髪を静かに揺らした。
「それは昔の話。
貴方に会う前まではそうだった。
でも、今と昔は違うの!」
震える声で訴える彼女の大きな瞳は、鋼玉の一種、ルビーのように真っ赤に染まっている。
「だって私は、貴方のことが――」
不意に重なる唇。
それは、彼女にとっては暖かすぎるもの。
二人の運命には冷たいものだった。
雲に隠れていた月が顔を出す。
今まで流れていた彼女の涙は自然と止まり、変わりに青年の澄んだ瞳から溢れだし、頬に一筋の線を描く。
「ごめんな?」
そう小さく、小さく呟く彼は悔しそうに下唇を噛み締める。
前から知っていた。気づいていた。
死神である彼女は、上から指名された人間の魂を喰って生きていること。
そして、それに自分自身が選ばれた事を。
命令に背けば、彼女の命がないことも。
彼女が生きられるのなら、自分の命など、どうでもよかった。
「俺は、お前の幸せを願う」
そう言う彼の右手には銀色に怪しく光る刃物、ナイフが握られており、それを自らの胸に深々と突き刺した。
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