美しい景色の下で……

3/5
前へ
/41ページ
次へ
二人を照らす月が雲に隠れる。 冷たい風が少女の長い金髪と、青年の黒髪を静かに揺らした。 「それは昔の話。 貴方に会う前まではそうだった。 でも、今と昔は違うの!」 震える声で訴える彼女の大きな瞳は、鋼玉の一種、ルビーのように真っ赤に染まっている。 「だって私は、貴方のことが――」 不意に重なる唇。 それは、彼女にとっては暖かすぎるもの。 二人の運命には冷たいものだった。 雲に隠れていた月が顔を出す。 今まで流れていた彼女の涙は自然と止まり、変わりに青年の澄んだ瞳から溢れだし、頬に一筋の線を描く。 「ごめんな?」 そう小さく、小さく呟く彼は悔しそうに下唇を噛み締める。 前から知っていた。気づいていた。 死神である彼女は、上から指名された人間の魂を喰って生きていること。 そして、それに自分自身が選ばれた事を。 命令に背けば、彼女の命がないことも。 彼女が生きられるのなら、自分の命など、どうでもよかった。 「俺は、お前の幸せを願う」 そう言う彼の右手には銀色に怪しく光る刃物、ナイフが握られており、それを自らの胸に深々と突き刺した。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加