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少女はあまりの突然な出来事に、ただ唖然とする。
彼はそのまま後ろへと倒れた。
白銀に輝いていた雪の上に舞い散る赤黒い血。
それは、白いキャンバスに無造作に塗られる赤い絵の具のようで、嫌でも目に焼き付く。
「何、して……るの?」
先程まで止まらなかった彼女の涙のように、彼の胸から出る血もまた、止まることを知らない。
「ねぇ、どうしよう。どうしよう?
血がね……止まらないの」
彼の傷口を雪のように白く、小さな手で覆う。
止まれ、止まれと思えば思うほど流れる血。
せっかく止んだ涙の雨は、また彼女の瞳から降りだした。
「もう、いいよ」
弱く、弱くそう呟く彼の表情は、とても優しい微笑みを浮かべているのに、どこか悲しそうだった。
「俺は、雪のようにフワフワしているお前が……大好きだった。
お前の気持ちは……今度、聞かせて?」
また今度、ね?ちゃんと聞くから。
次の出会いは、もっと幸せなものだといいな……。
「いやぁああぁぁぁっ!!」
ぐったりと横たわっている彼に、すがるように抱きつく少女は、ただ泣き叫ぶ。
私も澄んだ瞳をもつ貴方が大好きだった。
貴方だけいれば、あとは何もいらないくらい大好きだった。
ううん、愛していたの。
だけど、貴方がいない今、私はどうすればいいの?
今度、だなんて言わないでよ……。
二人を照らす月の浮かぶ空からは、まるで踊っているかのように雪が降る。
宝石のように輝くそれは、とても綺麗で……。
だけど、彼女が顔を上げない限り、気がつくことのない美しい景色でもあった――
【美しい景色の下で……】-Fin-
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