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そう言った彼…南琉くんは、目を細めて笑った。
先ほど私を見下ろしていた時の、尋常ではないほど放たれていた殺気はどこへやら。
金縛りにあったかのように動けずにいた身体が自由になる。
ひくついていた頬が、彼につられて緩むのを感じた。
同時に、なんの確信もなく思うのだった。
聞き間違いだったのだろう、と。
「…うんっ!」
私の顔に、笑みが戻る。
幼すぎた私に、南琉くんのことを理解するのは難しすぎたのだ。
後に知ることになる、彼のアナザーソウル…ソウの存在。
それは、非道な人体実験により、彼の身体に宿った魂。
そんな非現実的なことを、誰が想像できただろう。
一定の間隔毎に建てられた街灯が照らす薄暗い一本道、今にも鼻歌を歌い出しそうな私が再び歩みを進めた時、ゆっくりと目を開けた彼…その瞳に、やはり光はない。
彼は、彼であって彼でない…南琉くんではなくソウの人格が、この時の彼の身体を支配していたのだ。
「波瑠南はまだ幼い、だが…そんなことは通用しない世界なのでな。」
ソウは、ちょうど私が聞き取れないくらいの声で、ぼそりと小さく呟いた。
内容まではわからなかったが、何かが聞こえた気がした私は、再び彼の顔を見上げ、小首を傾げる。
「?…今、何か言った?」
「ふふっ…いや、何も…。」
細められた目、長い睫毛の下に少し覗く紅色に、先ほどのようなよどみはない。
上手いこと人格が使い分けられていたため、当時の私は気づかなかった。
南琉くんが殺し屋だということが紛れもない事実であること、ソウの存在…何にも気づけなかったのだ。
…これが、南琉くんたちとの出逢いだった。
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