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彼は、私よりもだいぶ背が高い。
気を使ってくれたのだろう、私に目線を合わせるために、屈んで話してくれていた。
ここで、初めて彼の顔を見ることができた。
「ふっ…今さらこんなことを言うなんて、俺は最低な人間だね。」
今でもよく覚えている。
切れ長な目は、くっきりとした二重。
高い鼻に、形の良い唇、おまけに小さな顔、同年代にしては高い身長。
長い前髪が、風に吹かれて小さく揺れる…綺麗な、金髪。
美しい、その言葉は彼のためにあるのだと、幼いながらもそんなことを思ったのだったか。
あの時の衝撃を、忘れるはずがない。
当時の私は、瞬きを忘れ、彼に魅入っていた。
「でも…」
彼が言いかけると同時に、強い風が吹く。
それまでの彼の言葉は右から左だったのだが、思わず目を瞑ったことにより、視界が真っ暗になる、聴覚が敏感になる…
「君はもう、俺のものだ。」
飛び込んできたのは、耳を疑ってしまうような言葉。
その真意を問うべく、無意識に顔を覆っていた腕を下ろし、目を開ける、と…
「だから言っただろう?後悔する、って。」
悪戯に笑う彼の瞳と視線がかち合う。
先ほどは、前髪が作っていた影でわからなかったけれど、それが風で流された今ならわかる。
「………ずるい、」
澄んだ、紅色…瞳の色まで美しいなんて、ずるい。
小さく呟いた言葉に、可愛らしく小首を傾げる彼。
ここにきて、漸く悟るのだった。
ああ、もう、逃げられない。
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