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国がある。
まだ、生まれて間もない国。
国と呼ぶには、まだあまりに小さくて、儚いもの。
けれどそこに人々が集い、共に生きる。
彼らは、生まれて間もないそれを「故郷」と呼び、慕い、愛するのだ。
だから、ここは国なのだと、そう思うのは。
「…くだらない、な」
それを。
まだ儚いそれを見下ろし、彼はつぶやいた。
「国? 国とはなんだ?」
冷めた瞳。
瞳に映るのはただ、虚無だけ。
身にまとう漆黒のローブが、風に遊ばれふわりと舞う。
「国…? いや違う。人とはなんだ?」
彼は、その国を見下ろして、1人つぶやく。
周りには誰もいない。
彼がいるのは上空だから。
「生まれて、生きて、生きようと努力して、だからなんだ? 人とは生きて、なにをしようとしている?」
問いには誰も答えない。
風だけが、彼の言葉をさらっていく。
「もし人が、生きるために…なにかのために生まれてきたのなら」
彼は瞳を覆う。
何も映らない瞳に、片手でそっと触れる。
「なら僕は、なんのために生まれてきた?」
人は生き。
群れをなし。
国を作る。
生きるために作る。
生きるために壊す。
「僕は…」
作るものか。
壊すものか。
あるいは。
「なぁ…お前は、どっちだと思う?」
くく、と笑い。
彼は見下ろす。
今度は国全体ではなく、その中のたった一点を。
「生きるお前は…一体、どっちだと思う?」
くふ、くふふと笑いながら。
「教えてくれ」
そして、彼は…
その場から、姿を消した。
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