高速の男

4/10
前へ
/99ページ
次へ
2球目は外角真ん中にカットボール。アレックスは振りに行ったが、空振った。体制が崩れ、ヘルメットがずれたのでふらつきながらも直した。そこで桐生は見た。ヘルメットの奥でギラギラと光る目を。殺気をほとばしらせている、獣のような目だった。 アレックスは思い出していた。雄太の言葉を。【お前が出なきゃ始まんねー】 確かにそうだ。先頭打者とは、流れをつくり、後の打者に繋いでいく文字通り全てにおいての先頭。その自分が、たかが一打席抑えこまれて、たかがあんな本塁打を見ただけで、ムードを悪くしてはいけない。アレックスはそう思った。 アレックスの気迫に圧されつつある桐生だが、臆さず振りかぶった。右腕から指の先まで、力を伝えていく。白球が真っ直ぐアレックスの元へ進む。もう直ぐ、もう少しで、ミットへ。しかし、アレックスの目が変わった。そう見えた。獲物を捉える捕食者の目に。 コースは内角低め。難しいコースだが、振り抜いた。腕が痺れた。恐らくグリップに当たったのだろう。打球はショート正面。アレックスの脚が始動する。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加