夕陽の中で 第4章

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看護師 「北原さん、どうぞ」 先生 「どうしました?」 良子 「この子、妊娠しているようなんです」 先生 「そうですか。じゃぁ尿検査ですぐわかりますからこれに取ってきてください」 なおみは、先生から紙コップを受け取り、トイレに向かった。 尿を取り、それを看護師に渡す。看護師はそれに検査薬を浸け、結果を待っていた。その間に、2、3の質問を受けた。 先生 「最後の生理開始日はいつですか?」 なおみ 「…8月2日です」 先生 「ふむー、随分ありませんねぇ。では、男性との性関係を持ったのはいつですか?」 なおみ 「…ないと思います」 先生 「というのは?」 なおみ 「1度はそういう関係にはなりたいと思って、一緒に寝ました。でも、そういうことをする前に私の方が寝てしまって…。次の日に彼に聞いてみたら、何もしてないって。だから私の記憶では…」 先生 「…そうですか」 その時看護師が、なおみの結果を持ってきた。 看護師 「先生、結果が出ました」 先生 「どれどれ」 結果は陰性で、妊娠はしてなかった。 先生 「精神不安定による生理不順と、想像妊娠ですね」 良子 「え!?」 先生 「妊娠はしていません。精神不安定になったり、好きな人に抱かれたいとか、その人の子供がほしいとか思ったり、物事に過敏になったり、悩みも関係して起こる症状です。心配いりません。当分ムカムカとかあると思いますので、その時飲む薬を出しておきましょう」 良子 「ありがとうございました」 帰り道、なおみは複雑な気持ちだった。純二の子供を宿したと思ったのに、そうではなかったという悔しい気持ちと、妊娠してなくてよかったという気持ちとが入り混じっていた。 良子 「なおみ、そんなに竹本さんの子供がほしいの?」 なおみ 「そうじゃないの。ちょっと前まで悩んでたことがあって、その事で先輩にイジメられてて、誰にも言えなくて…。でもお隣りの赤ちゃん見てたらほしくなって…」 良子 「そうだったの。ごめんね、気づいてやれなくて」 なおみ 「ママは悪くないよ。私がいけないの。ちゃんと話してなかったから。でも、この前純二さんから電話あったとき、純二さんにみんな話したらすっきりして、悩みなんか吹っ飛んじゃった。きっと安心したからか、つわりなんて出てきたんじゃないかなぁ」
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