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朱。そんな淡い色じゃない。
紅。そんな鮮やかな色じゃない。
どす黒いアカ。
いかにも、具合の悪そうな。
日が経つにつれて、黒みの増す液体。誰もがいつも自分の中に満たしているもの。
一度体から出れば酸化し黒くなる血液を、幾度吐いたんだろうか。
痛いとかじゃない。ただひたすら苦しい。
生きている心地はもちろんしない。
早く死んでしまえたならどんなに楽だろうと、心の奥ではそう思っているらしい。しかしまぶたの下にちらちら覗くのは局長。いや若先生の優しい顔。
死ねない。どうしても。
戦場に立つ彼の背中を守るために治さなければならない。
苦しいよ、苦しいよ……でも、楽な道を選ぶのは……武士にあるまじき選択だ。
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