0人が本棚に入れています
本棚に追加
けれど、今の高橋くんは、私よりも随分と高くなっている。
もともと、私が背は低いほうなのだ。小学低学年は、クラスで1番低かったのが何よりも証拠。早く成長した分、止まるのも早くて、中学生になると、周りが大きくなり、いつの間にか、また前から数えたほうが早くなってしまった。
そう…あの時だけ…唯一、背が高かったのは。
ずっと背が高い人に憧れて、羨ましかった低学年。
でも1番背が高くなってほしくなった時に、高くなってしまい、背が高いことに喜びなどの感情は一切湧かなかった。
「依田、隣に座ろうか」
「いいの?誰かと一緒ではないの?」
誰か…例えば、奥さん…なのだけど、それは口にする必要もない。
けれど、奥さんにしてみれば、疚しいことがないとしても、歓迎出来ないよね。
「一人だよ。誘っても誰も興味ないみたいでさ。依田は?」
「私も同じ。でも高橋くんは何でも興味もつのね。昔のまま、変わってない」
高橋くんは、奇跡のような人だった。過去形にするのも可笑しいけれど、少なくとも私の記憶の中では…高橋くんはオールマイティな人だから。
文武両道、知勇兼備、勇猛果敢。
それらが当て嵌まる人。
しかも学級委員長もしていたし、いつも目立つ存在だった。
絵も上手だったし、放送部に入っていたぐらいだから滑舌も良くて。でも…そんな人だから、惹かれたわけではない。
実は、名前…「光政」という名前が珍しくて興味を抱いたのが最初。それから席が近くになり、同じ班になったことで、一緒に、グループでだけれど、作業をすることが多くなった。
一緒にいると楽しかった。二人きりになることはなかったけれど、時間を共有していくたびに惹かれて、いつの間にか…忘れられない恋となっていった。
けれど、大人の都合で、私は六年生になる前に隣の市へ引っ越してしまった。
卒業アルバムは当然、その引っ越した先の小学校のものしか持っていない。私にとって、高橋くんと繋ぐ写真と言えば、集合写真の一枚だけ。
引っ越した先の小学校で、辛い目を経験してきた私を支えてくれたのは、高橋くんへの想い。
高橋くんに相応しい、次に会った時に笑われないように、強くなりたいという…。
「何でもというわけではないけれど、視野を広げたいというのだろうか」
「分かるわ。私も。おかげで多趣味になったけどね」
それは、高橋くんを意識してではない。でも影響がなかったわけではないと思う。
最初のコメントを投稿しよう!