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内気で消極的な私が、中学生の時は作文で学年の代表に選ばれたり、高校生の時は部活の部長にもなったりしたこともあって、あの頃の私からでは想像つかないこと。
何も出来ない子だと思っていた、落ちこぼれだと思っていた私が…。高橋くんのことが好きになっていくたびに、自分の劣等感が目立って強くアプローチ出来なかった。
でも高橋くんがいない間、自分を卑下することがないぐらいの自信はつけられた。
時は移ろいいくもの…。
「それにしても、高橋くんが地元の歴史に興味をもっているなんて思わなかったわ」
別に可笑しいことではないけれど、嬉しくて笑ってしまう。
あの頃の私は無理していたところがあったから。高橋くんが好きなものを好きになろうとしていたから。そして、無理に話を合わせていたように思うから。
幼くて、恋の駆け引きなんて出来るはずもない。
ただ追いかけていた恋だった。
今は違う。そうでしょ?
「依田も同じだろう。女で歴史好きというのは珍しいし、しかもこんな地味な地元の…」
「そうね。でも好きなの。もう歴史好きになって軽く十年は経っているかしら?」
…これは、高橋くんとは一切関係ない。
当たり前のこと。全て高橋くん中心でこの二十年近く生きてきたわけではない。
私は私。
「そうか」
「うん」
やがて講演会が始まると、私は筆記用具を出して、レジメにメモしながら集中して聴いていた。
昔の私なら、高橋くんが独身なら、講演会の話なんて聴ける状況ではなかったと思う。
たぶん、意識が高橋くんばかりいって、変に思われてないかとか、浅ましくも、女というアプローチしていたかもしれない。
今は…大人になった分、分別がつくようになった。それが悲しいことでもあるのだけど。
講演会が終わり、筆記用具等を片付けていると、
「依田が真面目なのは変わってないな」
横で高橋くんが懐かしみ、目を細める。
そうね。真面目しか取り柄がなかったあの頃の私。
「不器用だから、そうしか生きられないだけ。それに、時間が勿体ないから」
「時間が?」
「そう。この瞬間はこの瞬間しかないの。その時間を使っているから、勿体ないと思うの」
時間を大切にする。
年齢を重ねると、よけいに…ね。
永遠というものはないから。
「依田は偉いな」
「そんなことないけれどね」
お互いに笑い合う。
良かった…。
これで…やっと…
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