第九章 黄昏

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「メグレズ……お前っ!!」 俺は、断崖の上に立つ真紅のローブを着た、策士に向かって吠える。 「……カストル・ムリフェイン……。 残念ながら、もう私はあなたには用はないの。 用があるのは──」 メグレズの指先が静かに動き、ある所で止まった。 「──あなたよ」 指が止まった場所……その指先の先に居たのは── ――ドゥーベ、だと? 「くっ、折角捕らえたドゥーベを、お前らに渡すわけにはいかない!」 次元刀を顕現し、正眼に構える。 それでもメグレズは、何をするわけでもなく、ただ断崖に立っているだけだ。 そのメグレズの口が静かに動く。 「誰が、ドゥーベを返せなんて言ったのかしら? 見当違いもいい所だわ!」 髪を掻き上げながら、鼻を鳴らしてメグレズが言う。 「なら、一体何が目的だってんだ!」 「……決まってるじゃない、使えない奴の末路なんて」 冷たい声で言い放つメグレズは、言葉とは裏腹に、背を向けて歩き出した。 俺は、メグレズの行動の意味が分からず、声を上げた。 「ま、待て!! どこへ行く気だ! ドゥーベを連れて行くんじゃないのか!?」 「彼に処罰を与えるのは私の役目じゃないの……じゃあね」 そう言い残し、断崖からメグレズの姿は消えた。 俺は、メグレズの行動・言動を未だに解せていなかったが、とりあえず、無事にヴィルゴを助け出せたことに、今更ながら、安心していた。
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