第九章 黄昏

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先程、メグレズの立っていた断崖とは反対側にある峡谷の断崖の縁に、冥府の深淵の如く暗い黒で包まれたローブ姿の人間が立っていた。 そのローブ姿から、十中八九ズィーベン・アストルムだろうことが窺える。 「……ミザール……」 生唾を飲み込む音と共に、アランが溜め息を吐き出すように呟く。 ミザール……コイツが、黒のミザール。 カストルが、気をつけろって言っていた奴か。 黒のミザールが、流麗な動きで腕を振るうと、ドゥーベの体に突き刺さっていた全ての剣が、ミザールの元へと飛翔していき、翼の形を形成していく。 そして、剣の翼が羽ばたき、ミザールがゆっくりと断崖から降下してきた。 「一応、初めましてということになるか。 我はズィーベン・アストルム“黒”のミザールだ」 「そ、そんな……あ貴方は!!」 俺は、降りてきたミザールの顔を見て愕然とした。 「アッシュさん! そんな、貴方が、ミザール……?」 「そういうことだ」 アッシュ……もといミザールは、顔色一つ変えずに自分が串刺しにしたドゥーベの亡骸を睥睨している。 「なら! 何故あの時、俺を戻るように促したんだ!! 敵である俺に、助言なんかしたんだ!!」 未だにアッシュがミザールだったという事実を認められない俺は、まるで怒りを吐き出すように、ぶつけた。 敵なら、俺を助けたりなんかしない。 だから、アッシュはミザールなんかじゃない。 今目の前で起こっていることは、悪い夢だ。何かの間違いだ。
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