第九章 黄昏

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「フッ、我が闇の精霊エストレジャの力だ。 次元の精霊程ではないが、コイツも異次元への接続が可能なのだよ。 その異次元へ、お前の技を送っただけだ」 ミザールは短く一呼吸入れた後、再び口を開いた。 「さて、そろそろ終幕としよう……。 双牙裂穿!!」 素早く腕を払うと、近くを飛んでいた剣が反応し、俺に狙いを定め、一直線に向かってきた。 茫然としていた俺は、反応が遅れ、すぐに避けることが出来なかった。 ――しまった……!! 殺られる!! 思考する間にも剣は速度を上げて、向かってくる。 ──あと、1m。 迫りくる死を予感し、俺は思わず目を瞑った。 「ッカストル!!」 叫び声がした次の瞬間、俺の体は大きく宙を舞った。 いや、そうではない。誰かに突き飛ばされて、吹き飛んだのだ。 「っ……一体……?」 吹き飛ばされてふらつく頭を左右に振り、俺は視線を自分が吹き飛ばされた方へと向ける。 そこには── 「嫌ぁぁぁぁぁ!! お父さん、お父さぁぁん!!」 ヴィルゴだ。ヴィルゴが、その体に二振の剣を浴びて、仁王立ちするように立ち尽くしていた。 アリアの絶叫にも反応せず、ただ立っていた。 「死して尚立つか。 敵ながら見事だ……。 カストル、いやカズト。 お前の命、今はまだ預けておこう」 ミザールは、そう言い残し、朱色の空へと溶けていく。 「お父さん……お父さん……うぅ」 アリアの啜り泣く声が、虚ろになった頭に響く。 アリア……。 ――俺のせいだ。 ヴィルゴさんを殺したのは、俺だ。 俺がしっかりしていれば、こんなことには!! 「くっ、うぁ、ウワァァァ"ァ"!!」 けたたましく慟哭する俺の声は、天へと吸い込まれていく。 遠い山に墜ちていく禍々しい程の紅に染まった陽星が、その姿を少しずつ、少しずつ消していった。
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