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可奈は心の中でそれはもう、日本サッカーチームが相手チームにゴールを決められたとき弟の発するものを遥かに凌ぐ大声で絶叫した。い、今自分なんて言った? 「んあ?」って? 「ふぇ?」って? で、片原くんが「おはよ」って? ぐわぁぁぁ! 身の破滅だあ。一生の不覚だぁ。
「大丈夫、逢坂さん。顔が真っ赤だけど?」
「あ、ああ、はい。だ、大丈夫ですぇ」
「ですぇ?」
もうダメです。もうこの際、埋めてください。誰の目にも届かないところに置いといてください。
可奈は自身の頭を抱え、ぶるぶると震えだした。なんてことだ。よりにもよって片原修吾くんその人に声をかけられ、過剰な反応をしてしまうとは。しかし、頭はクールダウンしてくれない。昇り始めた夕日にも負けないほどに真っ赤となった可奈はふらふらと揺れ動く。
「……カッコイイよね」
「え?」
何が? ただ揺れてるだけの自分のこと? その言葉の目標が自分ではないことに気付くのにヒートアップした頭でたっぷり数十秒かかった。やっと、彼の視線の先に何があるのかを察した。
「え?」
今度は確認のための、え、である。彼の視界には鉄棒を一生懸命回ろうとしている体操着姿の変人しか映っていないはず。
「……え?」
三つ目のえ、は呆然とする口から無意識下のうちに出たものだった。
「頑張ってる人ってさ。見ててカッコイイよね。見ててめっちゃ自分もああなりたいと思う」
体操着姿で鉄棒とファイトする人に? 落ち着け、自分。可奈はやっとこ現状を確認するまで自分の頭を冷やすことに成功した。そこで初めて片原くんの姿が陸上競技のユニフォーム姿なんだと気付いた。今部活中なのか、引き締まった肉体は汗で輝いて見えた。
「ねぇ、逢坂さん。野崎さんはなんであんなことしてるの?」
「え、……えっと……」
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