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応援してるよ、と爽やかな笑顔。そして彼はタッタッタと駆けていった。どうやら校庭をぐるぐるとマラソンみたいに回っているらしい。可奈はそれをぽーっとした顔で見送った。
「かーなー」
耳元で呪詛でも紡ぎそうな声。
「ひゃわっ!」
「ねぇ、何度も呼んでるじゃん。可奈も鉄棒しようよ。ていうかさ、コツおせーて?」
「……いーや」
さっきまでの弱々しい彼女はどこへいったのか、可奈は再び仏頂面になって華に言い放った。
「何度も言ってるじゃん。嫌だよ。だってダサいも――」
『なんにせよ、頑張ってる人ってカッコイイよね』
そこでさっきの彼の言葉が頭の中でリピートされた。
カッコイイよね
カッコイイよね…
カッコイイよね……(エコー)
「いや!」
可奈は立ち上がった。そして、猛然と鉄棒に向けて走っていく。
「行くぞ、華ぁ! 目標は大車輪だ!」
「えぇ?」
困惑する華を置いて、可奈はくるりと一回転した。その顔が微笑みをつくっていたのは、言うまでもない。
◇
片原くんと初めて会ったのは一学期も始まってすぐのことだった。可奈はその日珍しく、華に用事があるというので、仕方なしに一人で下駄箱に向かっていたのだが、
「あ゛」
まだ廊下の途中で、思い出してしまった。机のなかに“あれ”を入れっぱなしにしてしまったことを。いや、もしかしたら机の上に置きっぱなしだったかもしれない。なんでだ私、と可奈は自分を叱責し、走りだした。あれだけは見られてはいけない。見られたりなんかしちゃったら、作り上げてきたクールでドライなキャラが一瞬にして崩れ去ってしまう。
獲物を追い掛けるチーターが如く物凄いスピードで廊下を駆け戻り、可奈は教室のドアを開けた。そして、鋭い眼光で自分の席を睨んだ。
――やっぱり。
机の上にはぽつんと一つ、ぺ・ヨンジュンのポロマイド下敷きが、置かれていた。危ない危ない。皆帰っていたあとでよかった。多分、気付かれてはいないだろう。でなければ自分が大の韓流ドラマ好きだということが露見してしまうところだった。華にでさえこの趣味には『おばさんくさーい』と言われてるんだ。まともな人に見られたらどうなるか。
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