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安堵し、机に近づいていく途中で――気付いた。じーっと自分を見つめる視線があることに。油の切れた機械のようなぎこちない動きで振り向くと、一人の少年が机の上に座っている。確か……片原修吾くん。新入生女の子リサーチで、評価は確か中の上のちょいイケメンの男子だ。彼は他に誰もいないクラスルームのなかで、自分を穴があくほど見つめている。その時、可奈ははっきりと悟った。
――死んだ(社会的に)。
きっと彼は穏やかそうな草食系男子的見た目とは裏腹に、腹黒いんだ。これをネタに自分を一生揺すり続けるつもりなんだ。元来ツッコミ担当で、相手に弱みを握られることに慣れていない可奈はごくりと息を飲んだ。……泣きそう。
「これ、君の?」
彼はまずそう言った。
「……はい」
「これ、ぺ・ヨンジュンだよね?」
「…………はい」
「好きなの?」
「………………はい」
段々と小さくなっていく可奈の声。やっぱりだ。こうやって痛み付けるつもりなんだ。いたぶるつもりなんだ。じわり、と涙が滲んできた。
「そっか……」
ひょいっと下敷きを指で掴み、じっと見つめる。
「僕も好きなんだ」
……。
…………。
………………は?
「彼って『冬のソナタ』で有名になった節が強いけど、『初恋』も捨て難いよね。知ってる? あれって韓国の視聴率65、8%だったんだってさ」
可奈の目は点になった。『気持ち悪い!』くらいの罵声は覚悟していたため、本当に予想外だった。頭は上手く働かない。自分のことは棚にあげて、何言っちゃってるの、この人?と考える。けれども、口は正直だった。
「知ってる! でも私は冬ソナが一番だと思うんだ。私もユジンになれたらなーって思いながら見てたの!」
「そう? でもパク・ヨンハのほうが僕は好きかもしれない。あの誠実さは捨て難い」
「うん、わかるわかる。切ないよね!」
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