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「もしもーし。可奈ぁ。聞いてますかぁ?」
「効いてますよ」
むくり、と起き上がる。眼前には再度広がる華の笑顔。
「ね、ね。一緒にやろうよ。あたしさ、とっても回りたいんだ。こう、ぐるぐるーって」
これは一体何度目だろう。そしてこの台詞を言うのも何度目だろう。
「嫌です」
途端に華の顔は悲痛に歪んだ。
「なんで? 可奈はあの回転を見て回りたいって思わなかったの? あのしなりを見て、憧れはしなかったの?」
「んなものするの、あんただけでしょ」
「――いんや、したにちがいない。可奈はツンデレだから、きっと素直に言えないに決まってる」
ツンデレと称されたことは横に置いておくとして、やーっぱり華のセンスは人とズレている。あれ見たら普通の女の子は『内村様ーん!』とか言うでしょ。なんだい、回転したいって。あれと同じことしたいなら、陸上部でも新体操部でも入ればいいじゃないの。
その旨を伝えると、華はフッフッフ、と含み笑い。
「あの鉄臭いただの棒でぐるんぐるんするから意味があるんだよ。目標はねぇ……」
駄目だこりゃ。華ワールド展開だ。こうなった華は止まらない。
「――大車輪!」
豪語し、華は可奈の手を握った。
「あなたもきぃーっと回りたくなるでしょう! さあ、我らの園へ!」
「嫌」
一年の夏休みも終わり、学校全体がなんとなーく弛緩しているときのことだった。
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