21人が本棚に入れています
本棚に追加
「うっしっし。可奈のことなら全て御見通しさ。なんなら今日の朝ごはんも当てて見せましょう……って、話がそれちゃったじゃん。さあ、さあ、くるりっと!」
はあはあ言いながら、ニヤニヤしながら、指を不規則に動かしながら、近づいてくる華はもはや変態以外の何者でもない。こうなったらこの子はしつこいんだよなぁ、と可奈は長ぁーいため息を一回、そして荷物を華のそれの上に放り投げた。
「一回だけだからね」
「あぁーん。流石可奈! その鞭と飴のバランスがたまんなぁい!」
……変態な友人は置いといて。
可奈は目の前に堂々と佇む鉄の棒を眺めた。思わず息を飲む。何故だかそんなただの鉄の棒から覇気のようなものを感じたからだ。が、さっさと帰りたい手前、退くわけにもいかない。今日は一直線に帰って『どうぶつの森』をやり倒すつもりだったのだ。まったく、よくもまあ邪魔してくれたものである。
「よし!」
たった一回だ。可奈は鉄棒を掴み、大きく息を吸う。
そして、
「だりゃっ!」
と気合い一発。砂場をえぐるような勢いの蹴りを放ち、足を一気に押し上げた。景色が一変する。
回る。視界が。世界が。
体が風を切った、地球の自転から自分だけ外れたような気がした、刹那の間今までとは違った世界が見えた――
90度、120度、150度、180度――
「えぇ!?」
親友の驚愕の台詞を働かない頭が感知し、脳内で反芻する。
――あ、私今回ってるんだ。
「えぇ!?」
自分の眼前の景色が再びグラウンドを臨んでいるのを感じ、可奈も驚愕の言葉を吐いた。
360度――
可奈はいつもより高い位置から世界を眺めていた。
「で、できちゃった」
彼女はハハ、と力無く笑った。
◇
「すごい、すごいよ可奈!」
夕焼けに染まった空の下、帰路につくまでの間、華はずーっとつぶやいていた。独り言じゃなく、確かに自分に向けられたもので、常に反応を伺ってくるものだから、たちが悪い。
「もう、しつこいなぁ。女の子だって逆上がりくらいならそう難しくないでしょう」
「あたしはできなかったもーん」
最初のコメントを投稿しよう!