文久三年六月五日 in長州

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かすかな潮のにおいが鼻をくすぐった。 宮は違和感を感じながらもうっすらと目を開ける。 「ん~……ってあれ?」 宮はゆっくりと上体を起こしてみるもののすぐに異変に気付いた。 「え……。ここどこ?」 前方には碧い海、そしてここ最近は使われてなさそうな大砲らしき鉄の物体が並べられている。 後方には見渡す限り松・松・松。 「私、京都にいたよね?」 ためしに頬をつねってみるが、じんわりと痛む。 ザザァ……と耳に届く波の音が宮に現実を突き付けた。 「夢、じゃないんだ……」 なら一体ここはどこだというのだろう。 ただでさえ今年は厄年なのに。 日々色々な意味で苦労している宮は重いため息を吐きながら砂浜に寝転がった。 「……あ、そうだ。みんなは?」 宮は機敏に起き上がり、辺りを見回した。 「裕子、千秋」 近くに倒れていた裕子と千秋をゆすって起こす。 「宮ちゃ――」 「宮さん、ここは?」 裕子と千秋はほぼ同時に起きた。 が、起きるや否や、裕子が早速宮にひっつきそうになったため千秋が遮り、問う。 「んー……。それがわからないんだ。私達がいた場所の近くでないことは確かなんだけど……。そもそもここが京都なのかも怪しいし」 宮は顎に手をあて、考えを巡らせる。が、何かを忘れていることに気付いた。 「あ、明日香ちゃん」 明日香は何やら松の木に抱きついていた。
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