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「あ……明日香ちゃん?」
宮は恐る恐る近付いて揺すってみる。
が、明日香はにやにやと締まりのない笑顔で涎(よだれ)を垂らしながら幸せそうに眠っていた。
「明日香ちゃん、起きて」
「ん~……。高杉さ~ん」
ついには宮を長州藩士で奇兵隊総督の高杉晋作と間違えて抱きつく始末。
宮は思った。
(……いっそこのまま永眠すればいいのに)
と。
だが、それをあえて言わないのが宮の優しさ。
高杉晋作をこよなく愛する明日香を一瞬で起こす方法を思いついた宮は明日香を軽く叩くと言った。
「明日香ちゃん、向こうから高杉さんが――」
「よっしゃぁぁぁっ!! たーかーすーぎーさーん!! 今会いに行きまーすっ!」
宮のセリフは最後まで紡がれることは叶わず、明日香は飛び起きるや否や、宮が指差した方向へと走り去った。
明日香がいなくなった数秒の後、宮は菩薩様のような穏やかな笑みを浮かべ、千秋と裕子の方を振り返った。
「さぁ、行こっか」
「…………」
きっと学校生活における某人物約一名から受けるストレスによって宮は疲れきっていたのだろう。
その疲れを察した千秋と裕子はあえて宮の決断を追求しなかった、否、できなかった。
ただ、千秋と裕子は心の中で日頃の疲れを労うことしかできなかった。
(……いつもお疲れ様)
と。
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