グッバイ、私達の平穏

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「はーっ、やっと追い付いた!」 京都の繁華街を颯爽と歩いていた明日香と有希だが道行き人の喧騒に混じった後ろの聞き覚えのある声に振り返った。 「オゥ、みんな!」 明日香は十数メートル後方にいる美緒、千秋、菊、茉莉、宮、裕子に手を振る。 「“オゥ、みんな!”じゃねぇよ! 追い付くのどんだけ大変だったと思ってんだ! んでもって有希に至ってはガイドブック読んでんだけどぉ!! 罪悪感はないの!?」 茉莉もおそらく走ってきたのだろう。 息が上がっている。 そしてハァハァ言いながらビシッと指をさし、文句を言った。 が―― 「えー、だって早く土方さんに会いたいじゃん」 妄想壁の激しい有希には馬の耳に念仏。 彼女の頭の中には新選組副長――土方歳三のことしかないらしい。 茉莉の声は届いてはいない。 が、茉莉はなおも突っ込む。 「池田屋行っても土方さんには会えないからね!? てかまだそんなこと言ってんのか!」 「あ~、早く会えないかなぁ……」 「え、ちょっ、人の話聞こうよ」 有希の現実逃避は茉莉がいくらツッコミを入れようとも止まる気配はない。 それどころか―― 「うちは沖田さんに会いたいなぁ……」 明日香参戦。 「二人して別世界に逝かないで! そして、気付けばツッコミうちだけじゃん!」 何故か誰も加勢してくれない悲しさと虚しさを感じながら茉莉は嘆いた。 が、そんな茉莉に冷たい声がかかる。 「え、だってこの二人にいちいちツッコミ入れてたらキリないし」 さも当たり前のように言う千秋。 「それが茉莉の役目! 無駄に疲れたくないんだもん、うちらは」 グッと親指を立てて微笑を浮かべる美緒。 菊、宮、裕子も明日香と有希へのツッコミが無駄であることなど重々承知している。 つまりはツッコミは茉莉だけになったのだ。 「ヒドッ! もうツッコミなんか放棄してやるぅ!!」 茉莉はついにいじけて菊、宮、裕子の所に避難し、ここに明日香と有希のツッコミ役という希少な人材は絶滅した。
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