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僕の家の近所に花屋がある。
小さな花屋で、僕が生まれる前からあるのだと、母が言っていた。
花屋のおばさんは優しく、時々お菓子をくれたので、幼い僕はよく遊びに行っていた。
花屋は、当然だが季節の色々な花がたくさんあって、行くたびに甘い香が鼻をくすぐった。
そこには、おばさんの他に僕より十歳年上の長い黒髪がキレイな娘がいた。
その子は時々、店を手伝っていて、遊びに来ていた僕の相手をしてくれていた。
『同じ花でも色によって花言葉は違うのよ。例えば……。このバラ』
その子は、店にあった赤いバラを一本、手にとって僕の目の前にかざした。
『赤は「情熱」。白は「尊敬」「私はあなたにふさわしい」。青は「奇跡」「神の祝福」とか……。色々あるのよ』
僕は『へぇ』と感心したように呟くと、その子は『おもしろいでしょ?』と笑いながら僕に言った。
『お姉さんは、何の花が好きなの?』
ある日、僕は首を傾げながら、その子に聞いた。
その子は『そうねぇ』と笑って外を指差した。
『私は金木犀が一番、好きなの』
『キンモクセイ?』
その子が指差した先を見ると、小さなオレンジ色の花をつけた気があった。
『この季節になると、どこからか甘い香がしてくることがあるでしょう?それはね、この金木犀の匂いなのよ』
『花言葉は?』
そう僕が聞くと、その子は何だか嬉しそうに答えてくれた。
『金木犀の花言葉は「謙遜」「初恋」よ』
笑いながら教えてくれる、その子は、とてもキレイで可愛く見えた。
それが、僕の初めて恋に落ちる瞬間だった。
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