金木犀の恋

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十年の歳月が流れた今でも。 あの花屋はあった。 変わらず、色とりどりの花に囲まれた店で、あの人は手伝っている。 楽しそうに、ほほ笑みながら花に水をやる、あの人は美しかった。 あの頃から、何も変わらない。 店も。あの人の美しさも。 そして。 僕の思いも。 『あら、お帰りなさい』 学校帰りに、店によるのが僕の習慣になっていた。 『今日ね、ユリの花を入荷したの』 その人は、店による僕を嫌な顔ひとつせずに迎えてくれ、『今日はどんな花が入った』だの『育てていた花が、ついに咲いた』だの、小さなことでも話してくれる。 話は十分ほどだが、僕はその時間が、とても楽しかった。
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