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 身を乗り出して目を輝かせる幼子に若干のけぞりつつ、ミウウェの口元は再び左右に伸びていく。どこか困ったように両の眉の先を寄せて笑う。それはさながら妹の我儘を「仕方ないなぁ」と呆れと諦めを持って享受した姉のよう。 「わかりました、お嬢様。  ですが、この事は旦那様や奥様、他の家政婦達、それ以外の人にも決して話してはいけませんよ?」 「なんで?」 「……私は、雇われている身分でございますから」  表情を変えず、苦笑いのままで発された言葉にソフィアの眉根が寄る。もしやもう授業は始まっているのだろうかと彼女の言葉を脳内で反芻してみるもまだ正確な理解には遠く。しかしながらその言いつけを守らなければミウウェだけでなく自分にとっても好ましくない結果を招くものだろうという事だけは理解した。  顎を引き、上目遣いに彼女を見つめたまま一度だけ縦に顔を振る。 「わかったわ。秘密にする」  正直なところ、彼女の胸では鼓動がいつになく速くなり、心が再び浮つき始めていた。他人に口外してはならないという秘密を持っているという背徳めいた思いと、その秘密を他人――いや、親しい者と共有しているという事実は、彼女にとって初めての体験であったのだ。心躍るとはまさにこの事なのだろうと、興奮しそうになる己を抑えて、いつだったか絵本に出ていた言葉を思い出す。  きっとこれは蜜の味。甘い毒。  幼子の心は今、リンゴのように甘酸っぱい。  
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