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 分からぬ単語は辞典で調べ、それでもなお分からない場合は周りの人々に聞いた。とはいえ、父母に直接尋ねた事は少なく、ほとんどが家政婦達への質問であった。彼女達の助けを借りて、一月後にはもう読破した。  最後の文章を読み、もう続く言葉が無いと分かった時、彼女が覚えたのは達成感。胸の奥から湧き上がる何とも言えぬ温かいものが心を満たし、次なる欲求を生み出す。即ち、別の書物を読みたいという欲。しかし、彼女の浮き足立った感情に釘を刺したのは若い家政婦の一言であった。 「いいえ、お嬢様。本とはただ読み終えればいいというものではありません。理解をしなければ真の読破とは言えないのです」  そう進言したのは数名の家政婦達の中で最も若く、ソフィアから見れば歳の離れた姉のような存在になっている少女だった。四角い小さなフレームのレンズが光る眼鏡の奥では少し大きめな緋色の丸い目が輝き、肩まで伸びた緩いウェーブは室内に入ってくる光を受けて明るい緑髪を強調させている。やや発育不全を伺わせる胸元を気にしているのか、家政婦らしい裾の広がった質素なワンピースにフリルのついたエプロンをゆったりと着こなしている。  名をミウウェという彼女は数年前に教会学校を卒業している。あとしばらくもすれば「少女」から「女性」へと変貌するのだろう。  
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