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 彼女の言葉を耳にした時、ソフィアの中でミウウェに対する思いが一気に加速した。元々友人のようにも姉のようにも慕っていた彼女への“憧れ”というものはあるのだが、ここに来てそれが一層増したのだ。  彼女のようになりたい。  他の家政婦達でなく彼女を憧れの対象としたのは、年齢の近さと同時に、こんなに歳若いのに既に働いているという事実があったのも含まれている。身近な人間への憧れとある意味曖昧な目標を持った彼女は、しかし、すぐにその藍色の目を伏せた。 「でも、わたし、この本をまずどう考えればいいのかわからないわ」  まだ幼い子供にいきなり考えろと言われても無茶というもの。伏せた目と同じように悲哀を滲ませた声色を聞き取ってミウウェの眉間が僅かに寄り、目尻を下げる。  しかし、それもすぐに跳ね上がる。一つ閃いたとばかりに瞳を輝かせた彼女が思い浮かべる言葉はソフィアを慰めるものではない。だがそれは同時に二人の基本的な関係の境界線を越える事を意味していた。彼女がそれに気付かないはずがない。だがそれでも、己を慕ってくれるソフィアは彼女にとって妹のようなものであり、同僚よりも親しく感じられる存在なのだ。そんな相手を、情を持つ者はないがしろには出来ない。  
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