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 一線を越える覚悟を決めて、ミウウェは箒を近くの壁に立てかけると膝を曲げて腰をかがめた。 「お嬢様、そう悲しむ事はございませんよ」  彼女の明るい声にソフィアは怪訝そうに顔を上げる。自分と目線を合わせるようにしゃがみこんだ彼女の視線とぶつかる。いつもならフレームに収められたレンズに映る自分の姿を不思議に思って眺め、楽しむのだが、この時ばかりはその奥に見えるやや丸みを帯びた緋色の瞳に心を奪われた。  言葉こそ発しなかったが、疑問を浮かべた表情で相手には伝わったらしかった。ミウウェの柔らかそうな頬が少しだけ張り、口の端が伸びていく。 「私の先生ほどには出来ませんが、もしお嬢様がよろしければ、私めにお嬢様を教える手助けをさせてくださいませ」  あくまで使用人としての姿勢を崩さぬように申し出る。ソフィアは彼女が放った言葉の意味を理解すると顔を綻ばせた。 「ミウウェがセンセイになってくれるの?!」 「あくまでも手助け、ですよ。それに、そんな立派なものでもありません……」 「でも、教えてくれるんだからセンセイだわ!」  
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