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 留守番の時、大抵彼女は読書に勤しんでいた。とはいってもいきなり大人が読むような難しいものではなく、両親が買い与えてくれた絵本等から始めたのだが。それの読み聞かせもまた、ほとんどが家政婦がしてくれていた。時には外で、時には夜に一人で、彼女は両親がくれた絵本を何度も何度も暗記するほどに読み返した。  彼女が持つ絵本は全て彼女の個室に置かれている。壁は建物内共通で灰色なのだが、その居室内には木製の寝具や家具の他にぬいぐるみや玩具などがあり、子供部屋である事を強調させていた。部屋の角に設置されたベッドの足元近くに設置している本棚は子供の身長でも取れるようにとその高さは二段分しかなく、中に収められた絵本はその半分にも満たない現状だ。空いた空間には小さな猫のぬいぐるみや女の子の人形が収められている。  彼女が自由に行き来できる部屋といえば、この部屋以外では居間ぐらいなものだ。両親の寝室ならびに書斎は入室する事を固く禁じられている。その理由として、部屋に納められている両親の書物は分厚い物が多く、また、本棚も彼女の身長では届かないほど高い事から、事故を懸念している事が挙げられている。両親ばかりでなく家政婦達にまで強く言われており、そこまで多くの大人達が口を揃えれば彼女も閉口せざるを得なく、仕方なく出入りを諦めていた。  しかし、興味が無いと言えば嘘になる。彼女は父母がその部屋から何度か書物を持ち出しては仕事場に向かうのを見ており、その書物が彼らの仕事に必要なのだという事を聞いていた。自分が持っているような絵本とは明らかに違うそれにはどのような事が書かれているのか。書物に記されたものが今の彼女には理解出来ないとはいえ、好奇心が否がおうにも刺激されたのは仕方ないといえよう。  『両親が読む物=大人の読み物』という認識を持っていた彼女は、それを読む事が大人という事なのだと思うようになっていた。  憧れともいえる書斎の書物達。それに早く手を伸ばしたくて、彼女は絵本から次のステップへと進みたくなった。  
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