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◇  ◇  ◇  彼女の六歳の誕生日が近づいてきた頃。その日は両親が珍しく在宅していた。何でも研究が一段落したので少しばかりの休みが与えられたらしい。外では日光が所余す事無く照らし、木枯らしが吹いている。少し強い風が木製の窓を時折揺らしていた。窪んだ窓の置き場には黄色い花を一輪咲かせた植木鉢が外の振動を受けてか花びらを揺らし続けて止める事が無い。  木製のテーブルと椅子にソフィアと両親は腰掛けていた。ソフィアの隣には母親の姿があり、小さいが長方形を形作っていたテーブルを挟んだ向こう側――つまり正面には父親が居た。  彼らは母親が作ってくれたシチューと買ってきたパンを食べていた。ミルクをたっぷり入れた甘い味のそれに加えて柔らかく煮込んだ野菜が噛みやすく、ソフィアだけでなく父も熱さに息を吹きかけながら美味しそうに食べている。ソフィアは先日家政婦と買物に行った時に買ってもらった(それもまた両親の希望であったのだが)群青色の質素なワンピースに染みをつけないよう、いつもより慎重にスプーンを口に運んでいく。 「美味しい?」 「うん、美味しいよ!」  母親の質問に彼女は即答してみせた。母親と共に食べる手料理の素晴らしさに彼女の顔は綻んでおり、その無垢な笑顔に母もまた安堵しきったような顔を浮かべた。肩下まで長く伸びた薄茶色の頭髪、その側頭部を慈しむように撫でられて、ソフィアの顔はさらにうっとりとしたものになる。研究者とは思えぬほどに滑らかな指先が何度も優しく梳いていく。  
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