闇の底にて

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だが、立ち上がって、公園の闇に背を向けた途端、闇の中に潜んでいた何か恐ろしいものに襲われるのではないかという根拠のない恐怖に囚われ、ベンチから動くことができなかった。 錯覚だということは分かっていた。 闇に潜むものなどなにもない。 立ち上がっても、何の危険もない。 だが、公園を包む闇と静寂が怖かった。 次に電車が通ったら……。 わたしは思った。 次に電車が通って、公園が照らされたら、そのときに立ち上がって、公園を出よう。 公園を出て、そのまま家に帰るか、それとも街灯の下でもうしばらく兄を待つか、それはそのとき考えればいい。
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