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質問は終わるギリギリまでやっていた。数学のプリントはやらないで済んだから、まだ良しとしよう。
やっとのことでチャイムが鳴り、地獄から逃れられた。
自分の席に戻って、倒れるように突っ伏した。いや、倒れた、でいいか。
「おぉ、そうだ。テン」
たっちゃんが何か思い出したようで、教室を出る直前で止まって、私の席まで来てくれた。
顔だけ上げて用件を問う。
「放課後、健康診断をやるから残って欲しいんだけど、いいか?」
「あぁ、いいッスよ……」
「あんがと。じゃっ、お疲れさん!」
最後に私の頭を乱暴に撫でて、職員室に戻っていった。
なーにーがー、お疲れさん、だ。
さっきの笑顔がムカつく。本当に。もう。てめえも充分楽しみやがって。
でもたっちゃんだから許す。
「ふふっ。髪、ボサボサだよ」
「ほっとけ。で、次は?」
唯に笑われたのを軽くスルーして、教室の掲示板に貼られた時間割り表に目をやる。
月曜日を探して、と……、
────体育。
「……体育!?」
思わず声にだしてしまった。しかも裏返った。
マズイ。これはいかんぞ。
着 替 え
脳内に、この三文字が浮かぶ。
普段は教室で着替えていた。でも、今は無理だろう。
心は女のままでも、体は男。クラスで気にする奴が一人や二人いても────
「おいっ、天!お前出ていけよ!!」
ほら、いた。遥菜さんがいたよ。
遥菜につられてか、他の人達も次々と出てけ出てけって言い出したし。
ジャージが入ったバッグを持って、大急ぎで廊下に出た。とりあえず、みんなが着替え終わるまで待つことにしよう。
勢いで持ってきてしまった……畜生。
廊下に出た途端、また視線が一斉に集まる。でも話し掛けられないのは、先生とか誰かから話を聞いたからだろう。
我慢だ。我慢するんだ綾瀬天!視線が何だ。ひそひそ話が何だ!教室にいるみんなが着替え終わるまでの辛抱だ!
みんなが着替え終わったのは、二時間目始まりのチャイムが鳴る二分前だった。
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