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「次の方ー!」
順番が来て、おぼんを置いて食券を差し出した。
忙しいんだろう、何か作業をしているから下を向いている。
つまり、まだ私を見ていない。
「……お願いします」
「はーい、オムライスねぇー……あら?」
顔を上げたおばちゃん。
口をポカンと開けて、目は目元の皺がなくなるくらい見開いている。固まってしまった。
これは予想していたことなんだけど。だからこそ、悲しくなった。
声をかけた方がいいかな。
そう思って口を開いたら、先に向こうが喋った。
それは悲鳴ではなく、落ち着きのある声。全てを理解したような声だった。
「あなたがあの、理事長さんのお孫さんね。ごめんなさいねぇ。話は聞いていたけどびっくりしちゃった」
「いえ、そんな。驚くのは当たり前ですよ。はい」
頭をかいて泣きそうになるのを堪えた。
少し声が震えていたかもしれない。
おばちゃんは食券を受け取って奥へ消えていった。
悲しいのは今だけだ。その内慣れる。
これで学校の食堂はもう大丈夫だろう。
今のおばちゃんを通じて食堂の人達は私を見ても、あんな大きなリアクションをとらない。
この調子で学園内の色んなところに行こう。
そうすれば、そうすれば……。
後ろから、肩にポンッと手を置かれる。
これは遥菜の手だ。何かあったのか。
はぁ、と溜め息が聞こえた。
「……泣くな」
「な、泣いてなんかねぇよ……うぅう」
泣き虫、と、遥菜が呆れたような声で言っていた。
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