3人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
いつもの時間、いつもの景色…。だけどその時が最後だとは思っていなかった。
君(仮にTとしておく)が運転する車の中、僕は当たり前のように隣に座っていた。僕は免許を持っていない。でも君は持っている。多少の情けなさを感じながらふと横顔を見ていた。映画のワンシーンのような、出来過ぎとも言える夕日がTを照らしていた。
「…どうしたの?」
僕の視線に気付いたらしい。
「いや、別に…。あ、でも…」
そのあとの言葉が続かず答えにならない返事をしてしまう。自分でも「でも」のあとに何を言いたかったのかわからない。ただ、見とれていた。
「これからどこかに行く?」
「いや、いいよ。今からバイトあるんでしょ?時間無いからいいよ」
1時間くらい前、Tはこれからバイトがあると言っていた。気を遣ってくれているのか、お互いそんな時間は無い事をわかっているのに、そんなTの言葉に少し戸惑ってしまった。
「このあたりで降ろしてくれればいいよ」
「本当に?家までまだあるよ?」
そう言ってくれていても止める気が無いのは鈍い僕にもわかった。
少し歩きたかった。
最初のコメントを投稿しよう!