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僕はアパートの階段を上がった。
(…鍵が開いてる?)
鍵を差し込んで戸が開いている事に気付いた。よく見ると台所の窓も少し開いている…。
(合い鍵なんて作ってないよな。作ったとこで渡す相手いないし)
そう思いながらドアノブに手をかけた。すると真っ暗な中に女の人が寝ていた。先輩だ。
「先輩、電気もつけないで何してんスか。それよりもどうやって入ったんですか…」
「んあー、ぬっち?」
ぬっちとは僕の大学でのあだ名だ。名前とかとは一切関係無く、ただ「響きがいい」という理由で半ば強制的につけられてしまった。
「台所の窓開いてた。隣の人にも見られたけど見慣れたんだろうね、無言だった」
「それ普通に不法侵入ですよ…」
先輩は二つ年上で今年卒業した。同じサークルで知り合ったが、気に入られたらしく2年くらい前からよく会っている。
「まあ、いいですけど。今に始まった事じゃないですからね…」
先輩はいつもこんな調子だ。一度も部屋に呼んだ事がないTとは逆に、先輩は月に何度か部屋に来る。呼んでなくても勝手に入ってきたりする。
「ところで先輩、今日バイトじゃないんスか?」
「今日木曜でしょ?嫌なお客来るんだわ。だから休んだ」
いい加減だ…。しかし先輩は不思議な雰囲気を持っている。それに仕事はきっちりこなす。だから嫌われたり仕事をクビになったりしない。
「ところでTちゃんとのデートはどうだった?」
聞かれたくなかった。
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