遺品1<傘>

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「いいえ、すいません………雨宿りに少し寄っただけで………買うつもりはないんです」 「そうだったんでございますか………すみません、私の早とちりのせいでお客様に迷惑をかけてしまいまして」 「いえいえ、十分楽しめました、また来ようと思います」 そう言って名無しに背をむけ出口の方に向かおうとした。 その時 「お客様」 はじめに聞いた名無しの声とは違い少し低い名無しの声でまた振り向く。 一瞬なんか悪いことでもしたかと思ってしまう。 「外はまだあいにくの雨でございます、雨宿りでこの店に寄ったのなら出口の右に傘コーナーがあります、どれも5円なのでぜひ買っていかれてはどうですか?」 「あっ………そうですね……じゃあ先に代金を払うので傘を取ったらそのままもう店を出ますね」 「はい………わかりました……………」 名無しに財布の中の5円玉を渡した後、傘コーナーに行ってシンプルな青色の傘を選んで出口に立った。
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