面倒な日々の始まり

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「………」   八月に入って間もない早朝、柳琢磨は自室のベッドの上に仰向いていた。 朝焼けに映る宿題が積み重なる机を見て一つ溜め息を吐き、横に転がった。 だるいだるいだるい、宿題の為に割く時間などあるものか。 琢磨の脳内には、宿題をやるというコマンドが黒字で表示されて実行できない。かといってゴロゴロするのが最善ともいえない。   「今何時だっけ…」   枕元に置いてある携帯電話のサイドボタンを押すと、クローズディスプレイがバイブレーションと共に発光した。   「5時か…」   夏休み中にしてはなかなか早い起床時間だ。 地平線から徐々に煌煌と光る太陽が出始め、鋭く熱い光が部屋に差し込んだ。 その光を嫌うように、琢磨は背を向けた。 開いたままのカーテンを閉めようと思ったが、僅かな眠気が残っていたので面倒になった。   「何しよっかな…、寝るか…それとも起きとこっかな…」   やっぱり寝るか、と思った刹那、携帯電話のクローズディスプレイの発光と共に、けたたましいメロディーが鳴り響いた。 早朝からメールとは不謹慎だな、琢磨は呆れながら携帯のフリップを開いた。 アラーム:5:00 数学A宿題 「………忘れてた」 他の宿題は終わっているのに、考えるのがダルいという理由でサボっていた数学A、しかし早くやってしまわないとどんどん後回しになるのは目に見えている。それどころかやらずに夏休みを越えてしまう。 琢磨はゆっくりと上体を起こし、のそっと勉強机に向かった。   …とは言っても朝は脳みそが働く筈もない。 何度も何度も頭が揺らぐ、首が座らない。   「朝飯食べよ…カロリーメイト棚の中にあったよな…」   白昼夢を観ているかのように、フラフラと立ち上がった琢磨は壁にぶち当たりながらも、階段をゆっくりと降りた。 リビングに入ると、弟と親父がテレビを観て寛いでいた。 早起きの傾向がある二人だから、特別何かあるとは考え付かなかった。 二人も特別何もなさそうだ。 台所に入ると、戸棚をガサガサ漁りだし、茶色い字でCalorie Mateと書かれた箱を引きずりだした。 箱を開け、中の袋から茶色のスティックを口に含んだ。 それをかじりながら、自分の部屋にノコノコと上がった。
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