序章~夏休み一日目【1】

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普通の家庭には似付かわしくないほどでかい冷蔵庫から、ちょいちょいとおかずになりそうなものを取り出し、奥で白飯片手に軽く腹を騙しにかかった。 じっくり飯食ってる暇なんか無いんだい。 そこにひょいと顔を出した母は、大きな声で叫んた。 「あー!ゴハン食べてる!余ったパン食べてもらおうと思ってたのに!」 …危なかった。早く部屋に戻るため、速攻で食べ始めた甲斐があったってもんだ。 その他にも色々文句を言っている母にスラ返事しながら昼食を終え、さっさと部屋に向かうことにした。 粉っぽい厨房を抜け、色んな材料が置いてある通路を抜け、生活スペースである場所の階段前まで来ると、後ろから色々言いながら付いてくる母に言った。 「じゃ、今日は思いっきり勉強したいから部屋に入ってこないでね。八時半までには降りて来るから」 母がぽかんとした顔で固まる。 「…勉、強?」 どこか知らない、マニアックな国の言葉でも聞いたように同じ言葉を繰り返してきた母。おそらく日本語的に解釈するならば、今のアクセントは俺へ当てられた質問なのだろう。 日本語として分かりやすく書き換えると、「勉強するの?」という質問文だ。 「そ。今年は夏課題が多いんだ。夏休みの友を出されちゃったんだぜ」 じゃね、と階段を上る。 母はまだ固まっている。よほど俺から「勉強」の二文字が出たのが驚きだったのだろうと思う。 でもちょっと驚き過ぎだと思う。 受験戦争の真っ只中にいるんですよ?俺。
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