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「ちはや、この好きな人って…。」
俺がその続きをいう前にちはやは有り得ない速度で、先程まで俺の手に落ちていた入部届を奪還した。
「ここ、これは入部志望理由が思いつかなかったから仕方なしに書いたまで…あ、あなたが考えるような不純な動機はない。」
カーテンが風で揺れ、保健室の空気が夕焼けの空に染まった、などと格好つけた表現を用いましたが…要は顔が赤くなったと。
それにしても仕方なしにこんな事を普通なら書きますまいて、まぁ…ちはやが顔を真っ赤にして否定してるのは新鮮だったが、それ以上意地悪するのは流石に可哀想だからやめましょう。
「ちはや、言い忘れたが帰宅部には入部届はいらんぞ。」
「え…っ。」
俺の言葉に鳩がビーンガンでも喰らったかのような顔をして固まった、それにしても何か今日のちはや面白いな。
「いつまでも固まってないで、そろそろ帰るぞ。」
俺は空っぽの鞄を背負い込み、保健室を出ようとした、その時後ろから俺の進行方向とは逆の力が働く。
「ん??」
振り返ると若干むっとした表情でちはやが俺の服の裾を掴んでいた、あの……裾がぐしゃぐしゃになってます。
「知っていたのならば最初から教えて、私を誑かすのはやめて。」
「誑かすって、そんな…。」
そうだ、そんなつもりはない…だがちはやにはそう見えたんだ、俺は多分ちはやを感情の無いヒューマノイド・インターフェースか何かと勘違いしていた。
だがそれは間違いで、ちはやも好き嫌いがあって、そんな事を俺は忘れていた、俺はとんだ馬鹿野郎ですね。
「ごめんな、ちはや。」
「分かってくれればいい…。」
「帰ろうぜ。」
「帰ろうぜ…。」
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