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2020年・日本都市・東京ーー。
この街も紅月に支配された街だった。
毎夜、紅月が姿を現す度に街には悲鳴と怒声が響き渡る。
その為、以前は多くの人で賑わっていた夜の街も、今は静寂と恐怖に包まれていた。
人々は紅月が現れる夜になると、外に出る事はしなくなる。
紅月が現れ、10年の月日が経ったが現在も、事態は悪化の一方を辿っていた。
毎夜、阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられる中、誰もが思う。
ー何故、こんな世界になってしまったのだろうー、と。
「きゃああああっ!!」
そして今日もまた、誰かの悲鳴が紅月の夜空に吸い込まれて行く。
「誰か……、誰か助けてぇっ!!」
ビルとビルの間を、一人の若い女性が逃げまどい、その後を追い掛けるのは、二人の若い男たち。
「来ないでっ!!誰か、誰か助けてぇ……!!」
泣き叫びながら逃げる女性を、笑いながら男たちは追い掛ける。
その光景を、コンクリートジャングルの隙間から紅月が冷たく見下ろしていた。
「へへっ、追い詰めたぜ」
行き止まりに入り込み、完全に袋の鼠になった女性に、男たちが卑しい笑みを浮かべ迫って来る。
「その綺麗な顔を切り刻んだら、どんなにスッキリするだろうなぁ~」
細目で長身の男がそう言ったと同時に、男の右手が突然、鋭い刃に変化し、そして隣の男の爪が、異常に長く鋭くなった。
男たちは紅月の光を浴び、覚醒した能力者、一方、女性は光を浴びながらも、能力を得なかった者。
紅月が現れてからの10年、前者と後者の間で繰り返される下剋上。
弱者と強者、狩られる者と狩る者、それが今の日本の現状。
「ぎゃはははっ!死んじまいなぁぁっ!!」
高笑いと共に、男たちが己の凶器を振り上げる。
「いやぁぁぁっ!!」
「舞い踊れ、紅蓮乱舞っ!!」
紅月の夜空に響く声と共に、男たちは枝分かれした紅蓮の炎に捕縛された。
「な、なにっ!?」
「な、なんだよ、これは!!」
獲物を目の前にしての思わぬ事態に、男たちは驚きを隠せない。
だが、彼らを捕縛する紅蓮の炎は、まるで鞭のようにしなやかに伸び、きつく締め上げていた。
「くそっ!!誰だ、邪魔しやがったのは!」
「動かない方が良いわよ。まる焦げになりたくなければねっ!!」
苛立つ男たちの声に応えるよう、暗闇から姿を現したのは、燃えるような緋色の髪、そして紅い瞳をした女性。
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