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表通りに出た二人は、路肩に停めていた由の愛車である赤いフェアレディZへ向かう。
そしてハンドル横に備え付けた、無線機を手に取った逢莉が支部に繋ぐ。
「河内です。手配中の能力者2名、確保しましたので連行お願いします。場所は都内、新宿区歌舞伎町……」
『こちら支部。了解しました、直ちに本部に連絡し、連行班を向かわせます』
無線から返って来た応答を聴き、彼女は無線機を切る。
紅月が現れてから10年。
年々増え続ける能力者と同じく、能力に溺れ、飲み込まれる者も増えて行く。
その者に襲われ殺される、能力に覚醒しなかった人々。
そんな人々を護る為に、9年前、ある組織が作られた。
組織名は『朔夜(サクヤ)』
組織本部は警視庁内にあり、人数は50人余り、組織の人間は全員、紅月の能力者だ。
しかし彼らは己の能力を駆使し、使いこなす前者達。
狩る者と狩られる者、そして護りし者。
今、紅月の世界は、この三者に寄って分かたれていた。
「……この世に必要じゃないのは、こんな能力とあんたよ、紅月っ!!」
夜空に浮かぶ紅月を睨み付けた逢莉が、怒りを滲ませた声で言い放つ。
「本当、おかしな世界になっちゃったわよねぇ。今じゃ、あの紅月が存在する事が当たり前になってるんだから」
愛車に身体を齎せた由が、禍禍しい紅月を見上げながら囁く。
桜馗 由(オウギ ユイ)、彼もまた、紅月の能力に目覚めた覚醒者であり、『朔夜』支部の能力者。
その能力は炎使いの逢莉とは対極的な、氷使い。
しかし、相反する能力の形とは逆に、彼は逢莉の相棒である。
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