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 私の覚えている妻は、少しふっくらとした感じの、朗らかな笑顔が印象的な女だった。  しかし、今朝見た彼女は、見るからに痩せ細り、顔を見ずともその背中に疲労感を漂わせていた。強い風が吹けば、何処かに飛んでいってしまう、そう思えたほどだった。  そんな妻を前にして、私は声をかけることも、歩み寄ることさえせずに逃げ出した。  そうだ、私は逃げたのだ。
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