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轟々と燃え盛る火焔の世界。辺り一面灼熱地獄と化しており、逃げ場など皆無。何処に逃げようともあるのは死のみ。
そんな地獄の中で唯一生命が生き残っていた。しかし、それもすぐに生命も尽きてしまうだろう。その生命――いや、一人の青年はもう満身創痍の状態で、いつ意識を無くしてもおかしくない。
――だというのに、
「アハハ……ハハハ……! 私が……この私がいったい何をしたというのだっ!! もういい……貴様達がこうするというならば、私は手段を選ばん! ならば、より良き世界を創ろう……そうすれば……! クハハ……クハハハハハ!!」
――彼は笑う。嘲笑う。わらう。声高々に笑う。火焔の火の粉で喉が焼けてようが、肺がヤられていようが自分には全く関係無いかのように嘲笑う。
カシャン。
硝子が砕ける音が彼の近くで鳴ると、彼は、何かに気が付き、魔方陣を展開させる。
「――――――――」
とある魔法を発動させると、彼の身体は段々透けていく。完全に消えるまえに彼は、下に転がっている黒い“何か”を見て、涙を流しながら笑う。そして誓う。
「おっと、笑っている場合ではないな。もしもの場合に妻や子供達には内密で考えていた計画を始動させよう。――計画【ジェネシス】をな。いや、この計画は普通に考えて妻子に言うものではないが……まぁいい、では、計画の為に一度帰るとしよう。……それではな――」
こんな非常時に、冗談を言う程彼は落ち着いていた。いや、正確には落ち着きを取り戻した、というのが正しいだろう。普段の彼はこのように真面目で時折冗談を交えつつ周りを和ませるという優しい性格を持つ紳士なのだが、この時から変わってしまった。
――変わらなければならなかった。誓いの為に。
ただ、今それにどんな意味が在るのか、それにどんな想いが在るのかは――今の時点では誰にも分からない。
「――■■■よ」
そして、彼の姿は完全にこの灼熱地獄から消えた。
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