3人が本棚に入れています
本棚に追加
灼熱の炎の中、家だった物、壁やドアが焼け、黒い物体として崩れ落ちている。その地獄空間で、黒い髪の毛が特徴の少年は走る。無我夢中で走る。足が焼け、喉が焼け、肺が焼け、目の前が霞んで前が見えずとも少年は走った。
生きたい。
生にしがみつくように少年は走った。
少年にはいったい何があったのか分からない。しかし、少年にはそれを思考する暇など無く、走って走って走って、生にしがみつくことぐらいしか今の少年の頭の中には余裕が無いのだ。
息がきれ、肩で息しても少年は走ることを止めない。何が少年をそこまで突き動かすのだろうか。
それは少年がこの状況に陥る数分前に遡る。
少年は昔から一緒にいる少女と遊んでいる途中、急に家の内部が爆発。それに巻き込まれた少女が少年に逃げるように言うと、少年は戸惑っていたものの、少女をそのまま残して訳が分からないまま走り出すことになった。それが今の現状。
「あうっ!?」
黒ずんだ何かに足を取られ、そのまま前に倒れこむ。硝子が割れる音と共に、脳に電気信号が送られる。一瞬の熱さを感じたあと、急速に目の前が霞んでいく。
ボヤける視界に映る、真紅の世界で高らかに嘲笑う青年。
――嗚呼、血が流れていく。
少年は倒れた時、下にあった硝子で腕を切ってしまったのだ。それも深く。
ガタガタ。
熱いはずなのに、何故か身体が寒い。
ガタガタ。
ガタガタ。
身体の震えも止まらない。
――何故?
それは自分の目の前で声を高らかに上げながら笑っている“父親”を見て異常性を感じてしまったから。
――それは恐怖。
震える身体にムチを打ち、顔を上げる。顔を歪ませながら嘲笑う父親を見ると、少年が大好きだった父親はもういないと思えてしまう。
視界が霞む。紅い世界が終わりを告げ、黒い世界が視界を侵食していく。
紅い世界が終わるその前に、
「それではな、■■■よ」
微かに少年の鼓膜に声が届いた。
――暗転。
最初のコメントを投稿しよう!